ドナウ川の歩道に並ぶ【死者の靴】

Source: AtlasObscura

古都ブダペストを流れるドナウ川の川辺に、たくさんの人が脱ぎ捨てていったかのような靴が並んでいる。これは集団自殺の現場ではない。死にたくなどなかったのに命を奪われた、犠牲者たちの靴である。

AtlasObscura】1944年、ハンガリーではナチス・ドイツの支援を受けた“アロー・クロス・パーティー”という政党が権力を握っていた。彼らは反ユダヤ・ファシストの集団で、ブダペストのユダヤ人を、暴行と虐殺によって恐怖のどん底に突き落とした。

8000人近いユダヤ人がハンガリーを追い出され、収容所が待ち受けるオーストリアの国境まで、”死の行進”をさせられた。そのうち約2000人が、ドナウ川の堤防で無惨に射殺されている。

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そのとき、犠牲者たちは靴を脱ぎ、自分の手で、射撃される場所からどけておくように強制された。なぜなら当時、靴は高価な日用品だったからだ。そして無慈悲な処刑人と向かいあっては、凍てつく川に流されていったのである。

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映画監督の Can Togayと造形家の Gyula Pauerによってリアルに作りこまれたドナウ川の靴のオブジェは、このぞっとするような瞬間のために手向けられた献花のような作品だ。

材料が鉄だとは思えないほど、細かな質感まで再現されている。等身大で、1940年代のスタイルの靴が60足、川岸に据えつけになっている。

この記念碑はとてもシンプルだ。が、それがいっそう、虐殺された人々の残していったものを、冷徹に描き出している。

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靴の形は様々で──作業ブーツに、ビジネスマンのローファー、女性用のハイヒール、小さな子供の靴──つまり年齢も性別も職業も、まったく関係なかったことがわかる。

まるで、かつてその靴を履いていた人々の亡霊があらわれて、自分たちの存在を思い出させようとしているかのようである。

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モニュメントの3ヵ所に鉄の碑文が設置されており、ハンガリー語と英語、ヘブライ語で次のように記されている。

“To the memory of the victims shot into the Danube by Arrow Cross militiamen in 1944-45. Erected 16 April 2005.”

“1944-45年、アロー・クロスによってドナウ川に撃ち落とされた犠牲者たちに捧ぐ。2005年4月設置”