【空飛ぶスパゲッティー・モンスター教】が道路脇の看板をめぐって高等裁判所で争う【ドイツ】

Source: DW

DW】これはドイツ、ブランデンブルク州、テンプリンの町にたてられた看板だ。教会の日曜のミサの時間を案内する看板の下に、もう1つ、変な看板がならんでいる。

“ヌードル礼拝 金曜日 10:00から”

町の主要な入口4か所に、同じ看板が設置された。これは、かの有名な宗教団体“空飛ぶスパゲッティー・モンスター教”が、大胆不敵にも由緒ある福音派や他のプロテスタントにならって出した告知である。

■空飛ぶスパゲッティー・モンスター教とは…

教団の象徴的なイメージ。ヌードル触手と2つのミートボールのご神体。Source: DW

2005年アメリカ、カンザス州教育委員会にて、公教育の場で進化論と同様にインテリジェント・デザイン説(この世界のすべては「知性ある何者か」によって創造されたという説)も教えなければいけない、という評決が下されようとしていた。

これに疑念を抱いたオレゴン州立大学物理学科卒業生のボビー・ヘンダーソンは、公開質問状を提出。自身のサイト“venganza.org” において、空飛ぶスパゲッティ・モンスターを登場させ、「知性ある何者か」とは空飛ぶスパゲッティ・モンスターのことであり、世界は空飛ぶスパゲッティ・モンスターによって創造され進化してきたのだから、公教育において空飛ぶスパゲッティ・モンスターについて教えなければならない、と公開質問状で提案した。(ちなみにサイト名はスペイン語で“復讐”という意味)

このような皮肉な抵抗にも関わらず、カンザス州教育委員会はインテリジェント・デザイン説を教えることを決めてしまったが、2006年の改選では、それを決定した委員は全員落選し、元の教育基準に戻されることになった。

その後、空飛ぶスパゲッティ・モンスターはインターネット上で流行し、世界中で多くの支持者を集めて、数カ国に支部を持つまでにいたった。

≪主な教義≫
・宇宙は空飛ぶスパゲッティー・モンスターによって創造された。これは空飛ぶスパゲッティ・モンスターが大酒を飲んだ後の事であった。
・最初に創造したものは、山、木々、小人一人だった。
・古代の人の身長が低いのはスパゲッティ・モンスターの触手によって頭を押さえられていたからであり、現代人の背が高いのは人口増加によりスパゲッティ・モンスターの触手の数が足りなくなったからである。
・ボビー・ヘンダーソンがこの宗教の「預言者」である。
・信者は海賊の衣装を着る。海賊はスパゲッティ・モンスター教の教義の中で重要な位置を占めている。
・天国にはストリッパー工場とビール火山が約束されている。また、女性やゲイの信者のための男性ストリッパーも存在している。
・地獄はビールの気が抜けていてストリッパーが性病持ちであるという事以外天国と同じである。
・祈るとき、「アーメン」の代わりに「ラーメン」と言う。
・あらゆるドグマは拒絶する。
スパゲッティ・モンスター神が存在しないという明確な証拠さえ提示されるのであれば、スパゲッティ・モンスター神が存在しないという事さえ否定しない。
・教祖や教団にお布施をする代わりに、そのお金は「貧困をなくす」、「病気を治す」、「平和に生きて、燃えるように愛して、電話の通話料を下げる」のに使う。
(ウィキペデイアから抜粋)

さらに詳しく知りたい方は
【参考】ウィキペデイア:空飛ぶスパゲッティ・モンスター教 をご覧ください。

2016年、空飛ぶスパゲッティ・モンスター教はオランダで正式な宗教として認められ、ニュージーランドでは世界ではじめて法的に認められた空飛ぶスパゲッティー・モンスター教の結婚式が行われた。またアメリカでは、兵士のIDタグ(個人を識別するために、首にかける小さな金属のプレート)に、“Atheist/FSM” (無宗教者/FSM <Flying Spaghetti Monsterの略>)と刻印することが認められている。

そして2017年夏、ブランデンブルク州では、教団がテンプリンの道路脇にミサの看板を出す権利について、高等裁判所と争っている。

公共の利益につながるのか?ただのパロディーか?

「私たちの関心事は、団体の憲章にしたがって、科学的な世界観を広く伝えていくことです」と、代表のリュディガー・ワイダ氏は主張する。彼の洗礼名は“ブラザー・スパゲトゥス”だ。

団体は公共の利益のためにある、ということが明確になっていなかったので、現在税務署から少々圧力がかかっているようだ。

教団のウェブサイトには、このような声明がある。

「我々は一貫して自然主義を推進する。自然主義とはつまり、すべてのものは自然から生まれたのであって、妖精やらエルフやら、神もトロールも、空想から生まれたような生物は、存在しないということである」

だがそう言い切ってしまうと、肝心のスパゲッティー・モンスターも存在しないと言っているようなものだが…

ワイダ氏はそれに対して、「そんなバカな! パーティーとパスタのレシピは確かに存在しているじゃないか」と本国アメリカの教団を非難している。

赤い服を着ているのがワイダ氏、こと、ブラザー・スパゲトゥス Source: DW

教義はたしかにめちゃくちゃで、スパゲッティー・モンスターの存在さえもあやふやだ。が、教団には科学的な世界観を世に広めるという真面目な目的がある、というのがワイダ氏の考えだ。

この真面目な主張に対し、

神学者であり、スパゲッティ・モンスターについての本も書いたジャーナリスト、ダニエラ・ワコニグ氏も、やはり真面目に懸念を表明する。

現存する宗教に代わる選択肢として新たな信仰を持つことは、各々が自分らしい人生を全うするために重要なことである。が、皮肉な当てつけのための宗教が、宗教法人として社会的な特権を持つとしたら、笑い事では済まない問題だ、と。

裁判の結果、裁判所は空飛ぶスパゲッティー・モンスター教の教会を、確固とした信条に基づいた宗教団体であるとは認めず、したがって、ほかの教会とならんでミサの看板を出す権利は認めない、と判決した。

冒頭の看板は残念ながらすでに撤去されてしまった。しかしワイダ氏は、必要なら欧州司法裁判所に訴える、と今後もあきらめない姿勢である。

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