古代ギリシャの石工ピグマリオンは、自分で作った大理石の女性像・ガラテアに恋をした。ギリシャ神話にもこんな話があるということは、人間以上に理想の姿をした人形を愛する人々が、紀元前からいた、という証拠になるかもしれない。
ただし、現代のシンガポールに住むジン・ヤンさん(33)にとって、夢中になるのは大理石の像ではなく、
バービー人形だ。

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【mail online】白い外壁に地味なグレーの階段があるなんの変哲もないテラスハウス。だがドアの向こうに一歩足を踏み入れると、無数の人形が壁を埋めつくす異空間が広がっている。
自称“おもちゃオタク”を堂々と公言する ジン・ヤンさんは、20年間でおよそ 3574万円を人形コレクションに注ぎこんだ。そのうち 6000体がバービー人形で、彼女たちの魅力を引き立てるために、リビングをビビット・ピンクにコーディネートするという徹底ぶりだ。
リビングの3つの壁は、床から天井まで巨大なガラスケースで覆われている。自慢のバービーのほかに、そのほかの人形も 3000体あり、リビングに収まりきらない分は、クローゼットルームや書斎の棚という棚を占拠している。
「僕にはちょっとギャップがあるんです。もし、このコレクションの外で僕と会っていたら、僕がこういうタイプの人間だとは思わなかったでしょうね。外での僕は、みなが人形オタクと聞いて想像するイメージとは違いますよ」
と、ヤンさんは言うが、実際はそれほど意外ではないように見える。彼はプライベートだけではなく、仕事でもどっぷりおもちゃに漬かっている。おもちゃのトレンドをプロの目で分析し、オミコン・ メディア・ グループで販売戦略ディレクターとして働いているのだ。
シンガポールでバリバリ活躍するヤンさんには、人間の元カノがいたこともある。でも彼女たちは人形たちとくらべると不安定な存在だった。ショーケースからあふれんばかりの、歳をとらない美女の大群を目にすると、たいていは多すぎるライバルたちに恐れをなして逃げ出した。

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ヤンさんがバービー愛に目覚めたのは、おそらくそんな失恋を経験するより前のことだった。13歳のとき、鮮烈なターコイズブルーのレオタードとストライプのレッグウォーマーに身を包んだ“グレート・シェイプ”というバービーを目にしたことがきっかけだ。

『トイ・ストーリー3』でおなじみのグレート・シェイプ・バービー Source: mail online
「僕が世の中の常識なんてものを知る前の話です。テレビであのバービーを見て、一目で欲しくなったけど、買ってもらえなかった。大人になって自分の給料をもらうようになってから、ようやく自分の欲しいものを買う自由を手に入れたんです」
少年の日の憧れは、いつしか尋常ではない執着へと成長し、今では応援してくれる友人もいるし、家族も認めるまでになった。だれも止められないし、止める必要もない。

その情熱はかわいいバービーだけでなく、時代を象徴する人形たちにも向けられる。手に持っているのはオサマ・ビン・ラディンの人形。女装したビン・ラディンと、プレスリーの格好をしたサダム・フセインの世紀の会談、などというトリッキーな人形遊びも、ここでは可能。ビン・ラディンの人形を買った人は、G.Iジョーと組み合わせてテロリストごっこをするのか、バービーの彼氏にしたりするのか。 Source: mail online
「もうこのコレクションに夢中です!すごく興奮します」
ヤンさんの持っている中でももっとも古い人形の一つに、1960年代前半のキャッツアイで装飾された看護婦の服を着ためずらしいバービーがある。
だがその興味の幅はレアものの収集にとどまらず、あらゆる時代やスタイルを網羅している。さまざまな国の衣装を着た何十体ものバービーや、グレース・ケリー・バージョンやエリザベス・テイラー・バージョンといった具合に。
一番最近手に入れたバービーは、コムデギャルソンのブティックのみで販売された限定品だ。「友達が香港でたまたま見つけて、緊急連絡してくれたんです」と嬉しそうに語る。
バービーのほかには、ブラッツやモンスター・ハイ、Jem and the Holograms などのラインがお気に入りだ。
ヤンさんは愛好家としてだけではなく、持ち前のプロの視点を通して、人形市場を分析している。バービー人形は、1959年にマテル社で生まれ、これまで世界中で 1000億円以上を売り上げた。しかし 2013年の上半期では、バービー人形や関連グッズの売り上げは 12%落ちこんだ。4半期連続で下がりつづけている。
女の子たちの憧れたお姫様やバレリーナのイメージは、『トワイライト』にでてくるヴァンパイアのような、毒のあるイメージにとってかわりつつあるという。人形界のトレンドも、それにともなって刻々と変化している。
だがそれでも、バービーはだれもが知るアイドルであり、まだ将来は明るい、とヤンさんは断言する。
「マテル社は、ちょい悪でクレイジーなのがイケてるとわかっていたから、モンスター・ハイというシリーズを作ったんです。バービーは絶対にモンスターにはならない、とわかっていたからですよ」
ヤンさんのクライアントであり、マテル社のライバルでもあるハズブロ社も、この変化の波に乗ろうとしているそうだ。
「仕事で旅行しても、プライベートで旅行しても、どこにいたって人形は見つけられます」
出張するたびに、その土地の人形を買うという。ニューヨークに出張した時には、65体の人形を買った。旅先で人形を見つけるほかに、オークションサイトで買ったり、人にプレゼントするために買うこともある。好きなものを買って、好きなものと生きる、ヤンさんの収集の勢いが衰える気配はない。人形たちが部屋に収まりきらなくなったときはどうするのか、と聞かれると、
ヤンさんは「新しい家を買いますよ」と言って笑い、「でもまだ空いてる壁が一つありますから」と隣の部屋を指さした。
【参照:barbiemedia.com】
2016年、マテル社は、これまで現実離れしたプロポーションだと指摘されていたバービーのスタイルを、大胆にリニューアルした。オリジナルのバービーのほかに、7種類の肌の色、22種類の眼の色、30種類の髪の色、さらに14種類の顔のタイプがつけ加えられた。現実の多様性を反映して、肉づきのいいグラマラスなバービーもある。

「もう私の体型のことで、あれこれ言うのやめない?」と訴える、むっちりバービー。 Source: TIME
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