砂浜に打ちあげられた透明な宝石のようなかけら「シーグラス」。だれもが子供の頃一度くらいは拾いあげて、「これなあに?」と透かし見たことがあるのではないだろうか。
北カルフォルニア、フォートブラッグには、そんな「シーグラス」で覆われた夢のようなビーチがある。このビーチは人が意図して作りあげたものではなく、波によって形作られたのだが、シーグラスの材料になるガラス自体は人間が投げこんだものだ。

Source: Wikimedia
周囲をレッドウッドの森に囲まれたフォートブラッグは、かつて木材産業で栄え、労働者たちが生活するリゾートとは程遠い街だった。1906年、街でもっとも大きな木材会社の裏手の海に、公式のゴミ捨て場が開設されると、そこにガラスや電化製品、車までもが丸ごと投げこまれるようになった。当時は特に自然保護などの意識はなかったが、当然海は汚くなり、人々の悩みの種になっていった。
やがて海岸の環境破壊が問題視されると、1967年にはゴミの投棄場は閉鎖に追いこまれ、その後数十年に渡って、環境を回復するさまざまな取り組みが実施された。
金属などのゴミは撤去され、自然分解されるようなゴミは時とともに朽ち果てていった。しかしそれでも残ったガラスや磁器は、波に打ち砕かれて粉々になり、寄せ返す波に洗われるうちに、小さく、滑らかな、宝石のように磨かれていった。
そしてそれが砂浜を埋めつくし、この不思議な「グラス・ビーチ」が生まれたのだ。

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美しく生まれ変わったビーチには、毎年数万もの観光客が押しよせるようになった。夏になれば1日に1000~1200人の観光客がきて、記念に何個かガラスを拾っていく。そのうえ自然現象によって波がガラスをさらっていくので、ガラスは徐々になくなりつつあるという。
グラス・ビーチを守るため、観光客にシーグラスを持ちかえらないように呼びかけたり、シーグラスを人の手で補充しようという動きもあるが、実際にガラスの減少を食い止めるにはいたっていない。
フォートブラッグの議会は2012年12月10日、街の名物であるシーグラスの枯渇について話しあったが、ガラスの補填は費用の面からも難しく、海にガラスを撒くという行為自体、現実的に考えて許可されないだろう、ということから、実現することはできないと結論した。
これに対して、シーグラス博物館のオーナーCaptain J.H. (Cass) Forrington氏は、「今では毎年何万人もの観光客がシーグラス目当てにやってきている。このままグラスビーチを消滅させれば、街の観光産業に壊滅的な打撃をあたえる」と反発の声をあげている。今では森を切り倒して人々の暮らしを支えてきた木材工場は取り壊され、かわりに観光客向けのブティックやギャラリーが建ち並ぶ。
奇妙なことに、フォートブラッグでは、かつて海から撤去すべきだったものが持ち去ってはいけないものになり、さらには人工的に補充しようという、逆転現象が起こっているのだ。
【参考】Wikipedia
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