
ユネスコ世界遺産「ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群」 ShutterStock
南米コスタリカ、ディキス地方のジャングルの遺跡には、目的不明の無数の石球が転がっている。
この石はスペイン人の入植者がやってくるよりも、ずっと前からあった。確認されているだけでも、その数 300個以上。大きさは、小さいもので手のひらサイズの直径2cm、大きいものは2.5m以上。BBCによると、最大級の石球の重さは、14トン以上あるという。これはダンプカー1台分を軽く上回る。

石の計測。 Source: BBC

コスタリカ国立博物館の庭に置かれている石球。 Source: Wikimedia
地元の人々からは“ラス・ボラス(Las Bolas、スペイン語で「ボール」の意)”と呼ばれて親しまれ、ジャングルから持ち出された石が、学校や病院の庭に飾られていたりもする。ものによって精度の差こそあるが、形はほぼ真球が再現されていると言われている。
このコスタリカの石球は、一時期オーパーツ(その当時の技術ではどうやって作ったか説明がつかない謎の遺物)として注目を集めたが、後に石が作られたとされる時代の技術でも再現できる、と証明され、前のめりだった人々の興味がそがれる形になった。
仮説によると、その作り方は、
まず石を熱したり冷ましたりを繰り返して徐々に表面から崩していく。まあるくなってきたところで、同じ種類の硬い石で何度もたたいて形を整え、最後に砂などで磨きあげる、というものだ。(太古の石斧も同じ方法で作られたと考えられている)

濡れたTシャツを干しているのか、生活になじみすぎてしまった石球。 Source: Wikimedia
とはいえ、硬い石を真球にするのはそう簡単なことではない。主に材料に使われている花崗岩は、そこら辺の砂岩や大理石よりも硬い。綺麗に丸くするためには途方もない労力が必要であり、そんな手間のかかるものを、なんのためにこんなにたくさん作ったのか? ということ自体はやはり謎のままなのだ。

レベンタソン川をのぞむ丘の上にある石球。 Source: Wikimedia
石球の発見。形も年代も、正確な測定は不能
石球が見つかったのは、ヨーロッパではナチスが台頭していた1930年代のこと。このあたりはディキス・デルタと呼ばれ、テラバ川の流れによって堆積した豊かな土壌に目をつけたユナイテッド・フルーツ社が、バナナのプランテーションを作ろうとジャングルを整備していたときに発見された。
作業員がダンプカーでどかしたり、なかに黄金がつまっているという噂が流れて、ダイナマイトで爆破されたり、と考古学の専門家がやってくるまでに、いくつかの石球は破壊されてしまった。
最初は、ユナイテッド・フルーツ社の重役の娘、ドリス・ストーンによって簡単な調査が行われ、この不思議な石の存在が明るみになった。後にハーバード大学のサミュエル・ロスラップ博士が、さらに本格的な発掘調査を進めたところ、「様々な角度から円周や直径を測っても最大誤差が0.2パーセントのものや、直径が2.0066メートルとミリ以下の単位まで全く同じ大きさの2個の石球を発見した」という。
だが現在石球は経年による劣化が激しく、本来の形状がどれだけ真球に近かったのか測定するのは不可能である。

Source: Wikimedia
石球の周囲には、先住民の遺跡が広がっていて、同様に石球を含む遺跡が 45件確認されている。2014年にはそのなかの特徴ある4件が「ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群」として、世界遺産に登録された。
最も盛んに調査が行われている“フィンカ6(Farm 6)”と呼ばれる遺跡の推定年代は、西暦750年から1450年。そのため石の製作年代も遺跡と結びつけられて考えられているのだが、石に放射性炭素年代測定は使えないので、やはり石そのものの年代を特定するのは不可能である。
正体不明の石について、様々な仮説
そのミステリアスな景観からか、作られた目的については、いろいろな憶測が飛びかっている。アトランティス起源説や、宇宙人説、墓標や、なんらかの宗教儀式に使われたのでは? という説。
コスタリカの先住民ブリブリ族の宇宙観によると、これは先祖が作ったタラ神の大砲の玉ではないか、という。タラとは雷神のことで、タラ神は吹き筒に玉をこめて飛ばし、台風をもたらす風神を追い払ってくれるのだ。
地元には他にもこんな言い伝えがある。「かつて原住民は霊薬によって石を柔らかくすることができた」というのである。フランスのジョセフ・ダヴィッドヴィッド博士は、石球のなかには石灰岩でできているものもあるから、「植物からとった酸性の液体で溶かすことができる」と裏づけしたが、ほとんどの石球は花崗岩でできているので、石球の作り方の説明にはなっていない。でも太古の時代、尊敬を集めていた呪術師たちが、“魔術”と称してこのような技を披露していたかもしれない、とは想像できる。

模様が刻まれた珍しい石球。この線が星座を表しているという見方もあり、石の配置も天体と関わっているという説がある。 Source: BBC
それから、1つ1つの石より、石の配置になんらかの意味があるのでは? という説も有力だ。長い間に、石球は不用意に動かされたり持ち出されたりして、本来の位置を再現するのが難しくなってはいるが、遺跡によっては、本来の配置が手つかずのままと思われる箇所も存在している。
今後研究が進めば、太古の暗号が解かれて、コスタリカの石球が新事実とともにニュースを賑わす日がくるかもしれない。でもやはり、永遠に“正体不明”であること以上に、興味をそそられるものはないような気もする。
参考サイト:Wikipedia-Stone spheres of Costa Rica
BBC-The stone spheres of Costa Rica
ウィキペディア-コスタリカの石球
ウィキペディア-ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群
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