
ネプチューン・ライダーは、ショーウィンドーに置かれた実物大のマスコット。ワイルドな海の神様が、セクシーな人魚をつれて、ハーレーにまたがる。 Source: Facebook
刑務所作業、というと、反省の色を浮かべた囚人たちが、社会奉仕と職業訓練をかねて黙々と家具などを作っているというイメージだ。…が、アメリカ、メイン州刑務所の手作り木工品は、超自由でファンシーだ。
メイン州刑務所には 200年近い歴史があり、1823年の設立当初は、囚人たちは地下牢で寝起きして、石切り場で強制労働させられていた。1923年に建物が焼失して再建されてからは、ストライプのパジャマみたいな囚人服でおなじみの近代的なスタイルに変わり、アメリカでもっともセキュリティが厳重な刑務所として知られていた。

Source: Wikipedia
(ストライプのマヌケな囚人服には、囚人たちに恥辱をあたえる効果もあると言われている。写真は、電車ごっこのように列を作る「ロックステップ」という独特の行進。歩くあいだ、囚人たちは同じ方向を見て、決してたがいの顔や看守のほうを見てはいけない。私語厳禁で、2.1 m × 1.8 m の狭い独房に押しこまれる。これらの管理システムは、Auburn system と呼ばれている。)
それが今では、そんな重くるしいイメージとはかけ離れた自由奔放ぶりだ。

まさかの囚人服の顔はめ看板。 Source: Facebook

灯台型の鳥の巣箱がならんでいる。メイン州は沿岸部なため、海に関係した品々が多い。 Source: Facebook

子供用ロッキング・シップ。木のおもちゃが充実している。 Source: Facebook

ロッキング・ハーレーダビッドソン。暴走族にならないか心配だ。 Source: Facebook

リアルな鹿。 Source: Facebook

愛嬌のあるパイプのおじさん。ショールームは祝日を除いて基本年中無休。営業時間は午前9時から午後5時まで。インターネット販売はしていない。 Source: Facebook
囚人の増加に対応するため、トマストンにあったメイン州刑務所の古い建物は2002年に閉鎖され、現在はワーレンへと移転している。
木工作業をさせる目的は、
・公共のためによい製品を提供すること
・囚人たちをできるだけ忙しくさせておくこと
であるという。

手のこんだイカリ型の脚のテーブル。 Source: Facebook

囚人×かわいい! というミスマッチなおもしろさを抜きにしても、普通に欲しくなってしまう素敵な家具がいっぱいある。 Source: Facebook

ポップなランドリー型の棚と、くまのテーブル。原宿で売られていても違和感はない。 Source: Facebook

店内のどこかに隠された“セール・ポテトのスペンサーくん”を見つけると、お買い物の代金が10% OFFになる。…ゆるい! Source: Facebook
刑務所には、スリやペテン師もいれば、実際に他人に銃口をむけて引き金を引いてしまったような人もいる。そういう犯罪者の頭の中から、こんな甘くてラブリーなアイデアがでてくるというのは、一体どういうことなんだろう?
作者は、塀の外にいる私たちと大して変わらない、不幸な事情で魔がさしてしまった普通の人なのか? それとも、悪人にも優しい一面があるということなのか? あるいは単に、キティ―ちゃんのサンダルをはいたまま笑って人を撲殺できるような、メルヘンチックなサイコパスなのか? それは謎だ。

少しだけ闇を感じる、ような気がする。『エルム街の悪夢』風の灯台。 Source: Facebook

手書きのイラスト入りの小箱。 Source: Facebook
(残酷な殺人鬼は、いかにも精神病めいた怖い絵を描きそうだが、意外にもそうとは限らない。連続殺人鬼が上手なアメコミ風の忍者を描いたり、パステルカラーの折り紙でかわいい動物を折ったりもする。くわしくは、【連続殺人鬼】に手紙を送ったところ、返事がきたようです|南怪奇線を参照)
どちらにしても、メイン州刑務所ショールームに一歩足を踏み入れれば、たくさんの囚人たちの頭から流れ出たファンシーな夢の混合物に、ダイブすることになるだろう。

今にも飛び立ちそうな迫力あるワシ。囚人の人柄も、犯した罪も、いろいろだ。単純にインテリアとして楽しみたいなら、裏にあるものは知らないままのほうがよさそうだ。
“創造力”は、どんな人物だろうと、どんな場所にいようと、人間を自由にしてくれる。『ドン・キホーテ』を書いたセルバンテスは、獄中で愉快な騎士のコメディーを創造した。体は鉄格子のなかにあっても、心は騎士になって馬で駆けまわっていたのだ。
かたや、メイン州刑務所の名も知れぬ囚人は、ネプチューンになって、ハーレーで爆走する。
その姿は刑務所の塀を軽がる飛びこえ、ショールームを訪れた客の目に突撃し、遠い海のむこうにいる私たちの頭の中まで、自由にワイルドに疾走する。
【参考サイト】
Maine State Prison Showroom|Facebook
Maine State Prison Showroom メイン州公式HP
Maine State Prison|Wikipedia
Auburn system|Wikipedia
【関連】
精神病院にいても心は王様。
【狂気】精神病院で2万5000ページにもおよぶ自分の王国の物語を描き続けた男【アドルフ・ヴェルフリ】|南怪奇線
アウトサイダー建築。
【マーガレット食料雑貨店】黒人牧師が建てたピンク色の天の国【ミシシッピ】|南怪奇線